行司の心構えについて
いささか偉そうな、というか大仰なタイトルにしてしまいましたが、数年に渡って東都浅草投扇興保存振興会の方々との質問のやり取りの中で学んできたことを、ここにまとめてみたいと思います。
其扇流の公式試合の行司は、基本的に有段者でないとできません。逆に有段者になるには、行司がスムーズにこなせることが求められます。
しかし、銘定の概略だけを得点表で見て知っている、あるいは「覚えてないけど、得点表があればどうにかわかる」というだけでは、たぶん1試合をこなすだけでもすぐに困ってしまうでしょう。境界があいまいな状態というのが非常によく現われるからです。
本来は54通りある源氏物語形式の銘定を、其扇流では普及を優先して最初は19通りに簡略化してスタート。1988年に26通りに拡張し、その段階で浅草・伝法院の大会やテレビ番組などで広まったため、2000年から第三段階として始まった40通りの銘定をきちんと裁ける人は有段者でも少ないかもしれません。
ここは、特にそういう方にもぜひ読んで頂きたいと思います。
判定方法の詳細は「40種の銘定の詳細」をご覧頂くことにして、ここでは全般的なことをいくつか書きます。
- よほどはっきりした勘違いや言い間違い(若菜と若紫など。手習と花散里の言い間違いもけっこう多い)は別として、例えば花散里と末摘花、行幸と須磨、夕顔と朝顔など、境界があいまいな場合の判定結果については、最終的には行司の判断が絶対です。投者が(ましてや観衆は)クレームをつけてはいけません。この点は、スポーツの審判と全く同じです。
逆に行司は、そこらへんは自信を持って裁いてください。現在は他にも、夕霧やら朝顔やらに対して追加された紅葉賀と絵合のような判定も必要ですが、とにかく行司が決めたらそれがその試合での判定として確定です。
- かと言って、あまり適当な判定ばかりになってもよくありません。投者や観衆が納得できる判定をしようと心がける、そしてそのことをはっきりと態度で示すことも大事です。

そのために、行司の席の前にサイコロと共に置く扇子も積極的に活用しましょう。
須磨か行幸か。ちゃんと扇の面の垂線方向から見てますよ〜と強調するために、閉じた扇を扇の面と垂直に地におろし、蝶の方に指し示してやるとか、
薄雲か行幸どまりか。ちゃんと蝶の真上から見てますよ…ということを示すために、あたかも水準器のように閉じた扇を手からぶら下げてみるとか、
他にも、枕によりかかっていちおう立っているように見える蝶が自立しているかどうか、枕をそっとどけてみることによって「早蕨」を検証する。
あるいは扇の下で立っている蝶の自立を確認するために扇をそっとどけてみて、自立してたら蓬生、倒れたら夕霧と宣言する、などなど…。
基本的には行司の裁定に任されるわけですが、それはあくまで最後の最後。行司によって、時によって判定基準が違うように思われると不信感が残ってしまいますので、なるべく公平に公平に裁けるよう、時にはパフォーマンスも大事だということです。
なお、上記の薄雲や須磨の判定に際しては、やむをえず行司が一時的に立ち上がったりすることになりますが、その場で(立ったまま)声を出すのはみっともないです。いったん落ち着いて行司席に戻り、居住まいを正しておもむろに結果を宣告するようにしましょう。そうしなければならない、と言うわけではないですが、行司にはそのくらいの威厳が必要です。
- それでもどうしても迷う場合もあります。たとえば上の「須磨の判定」の写真を見ても、扇から垂直に伸ばした「枕の影」の中に、「蝶が半分以上」入っているかと言うと、かなり微妙なようです。
そんな時は最終的にどっちにしたらいいのか…「どっちにでも取れるほど微妙なら、得点が高い方」にして構いません。
なぜかというと、26種類から40種類に拡張されたことによって、すでにあいまいな部分や「ちょっとそれでこの点数は甘すぎるんじゃないか」というような部分がかなり排除されたからです。
今までだったら、例えば扇の端にほんのわずか蝶が触れていただけで5点も7点ももらえたりしていましたが、それが紅葉賀などの導入により低く抑えられるようになったので、そういう「ほんのわずか」でない限り、蝶が「半分だけ」しか扇にかかっていなくても夕霧だとか朝顔に堂々と取っていいのです。
それと大事なことは、少なくともその1試合の間は、同じような形が出てしまった場合に「さっきと違う!」と思われないように、自分の中で同じ基準を保つことです。さっきはこっちにしたけど、やっぱりこっちかな…なんて迷ってしまうようでは、両者にわだかまりを残します。どちらかに決めたら、それを貫くこと。
身内の例会では「この人は強いから低い方でいいだろ」ってなノリで適当に決めちゃう人もいるようですが、少なくとも公式の大会では絶対にそういうことはしないでください。
- 其扇流の発足当初は、なるべくルールも形式も簡単にしてスピーディーに試合を楽しめることを優先していましたが、本来、この遊びは時間がゆったりと流れているもの。
投者もゆっくりねらいを定めていいですし、行司もしっかり銘定するようにしましょう。
