試合の進め方
(銘定行司の口上など)
文扇堂で投扇興の道具のセットを購入すると、「投扇興の栞(しおり)」という説明書がついてきます。
その中に「其扇流投扇興進行次第」と題して、具体的な試合の進め方が書いてあるのですが、これまでの浅草の例会の席上で行司の口上については細かく訂正されてきていますので、それらを反映してまとめてみます。
また、この栞の説明は1試合を5投としているのですが、実際には10投するのが普通なので、そういう前提で書いていきます。
個人戦10投
なるべくリアルに説明するため、AさんBさんとかではなく、仮に鈴木さんと佐藤さんの試合をして鈴木さんが30−20で勝ったとしましょう。サイコロで勝った鈴木さんが先方とします。
- 銘定行司、記録取役、字扇取役の三名が所定の位置に着座。
- 投者2名が投席へ着座した後、氏名を確認する。この時、投者の前にサイコロを1つずつ置いておく。
- 行司 「ただいまより、鈴木殿と佐藤殿の対戦を行ないます」
- 行司 「一同、礼」
- 5人全員が礼をする。
- 行司 「サイ振りをどうぞ」
- 投者がそれぞれ行司の席の方にサイコロを振る。
- 行司 「鈴木殿6、佐藤殿4につき、鈴木殿先方にて行ないます」
- 行司 「両者、礼」
- 投者2名が礼をする。
- 行司 「はじめませい!」
- 先方の鈴木さんがまず1投する。
- 行司は、その扇と蝶と枕の位置関係から銘を定める。たとえば「花散里につき、1点」とか、
扇のカナメ側が枕を打った場合は「コツリにつき、過料1点」、などなど。
その銘定に応じて記録取役が所定の用紙に記録をつける。
- 字扇取役は、その行司による銘定が宣せられてから初めて扇と蝶を拾うこと。扇は自分の脇に片付け、蝶は枕の上に戻す。
たとえ自分にとって明らかな形に見えても、とにかく行司が銘定するまでは蝶にも扇にも触ってはいけない。
- 続いて後方の佐藤さんが1投する。行司が銘定して記録取役が記録し、字扇取役が元の状態に戻す。
- こうして先方と後方が交互に5投ずつ行なう。
- 行司 「投席を替えてください」
- 投者は字扇取役から5本の扇を受け取り、東西の投席を入れ替える。
- この時、記録取役は記録用紙を入れ替えることを忘れないように。
- 行司 「後半五投は佐藤殿の先方です」と告げる。
緊張していると、どっちが先方で始まったか忘れてしまうこともあるので、サイコロは最初の目のまま試合終了まで置いておくとよい。
- 後半の先方になった佐藤さんが1投。以下、交互に後半の5投を行なう。
- 行司 「これにて一席満投」
- 記録取役 「鈴木殿30点、佐藤殿20点」
- 行司 「鈴木殿 相勝ち候(あいかちそうろう)」
- 行司 「一同、礼」
- 全員が礼をして一切終了。記録取役は得点控を投者に渡す(例会や大会によっては渡さない場合もあり)。
なお、「一同礼!」の時は、相手に敬意を表する意味で自分の前に一本の閉じた扇を横向きに置いとくと美しいです、と言われたことがあります。これは投扇興に限ったことではないですね。もっとも、私もつい忘れてしまうのですが。
団体戦25投
こちらは、たとえばA連とB連の対戦としましょう。
- 銘定行司、記録取役、字扇取役の三名が所定の位置に着座。
- A連とB連の先鋒2名が投席へ着座、残り4名ずつは先鋒の脇に並んで着座する。
- 行司はそれぞれの先鋒に連の名前を確認する。この時、先鋒の前にサイコロを1つずつ置いておく。
- 行司 「ただいまよりA連とB連の対戦を行ないます。」
- 行司 「一同、礼」 13人全員が礼をする。
- 行司 「さいふりをどうぞ」
- 先鋒2名がそれぞれ行司の席の方にサイコロを振る。
- 行司 「A連6、B連4」
- (団体戦は途中で投席を替えられないので、場所か先後を選ばせる(→*注))
- 行司 サイコロで勝ったA連に「先攻後攻と場所、どちらを選びますか?」
- A連「先攻でお願いします」もしくは「場所を選びます」
- 今の席と反対側の席を希望されたら、この時にどちらの連も席を替える。先攻を希望された場合には、相手方の連に場所の希望を尋ねる。
(席が決まったらサイコロの位置もそれに合わせた方が無難でしょう。どちらが先方かを確認します。たとえばA連が先方になったとして進めます)
- 行司 「第一投者は、A連の先方です。両者、礼」 礼をして 「はじめませい!」
- 双方の先鋒が交互に5投する。記録取役が1投ごとに記録する。
- 行司 「第一投者終了、両者、礼」
- 記録取役は、個人戦と違ってここで記録用紙を入れ替える必要はない。引き続きその位置で記録を続ける。
- 行司 「第二投者は、B連の先方です。両者、礼」 「はじめませい」
- 双方の次鋒が交互に5投する。
- 行司 「第二投者終了、両者、礼」
- その要領で、先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の5人が投げていく。5人目の大将はA連の先方になっているので、B連の大将が5投目、つまりチームとしての25投目を投げた時点で試合は終わる。
- 行司 「これにて一席満投」
- 記録取役が集計する。個人戦より数が多いので手間がかかるが、慎重にカウントすること。
注:よく間違われるのですが、其扇流の団体戦は「5人の5投ごとの勝敗(「3勝2敗」など)を競う」のではなく「チームとしての25投の合計点を競う」競技であり、仮にある投者の5投が野分やコツリによってマイナスになったとしても、個人戦のように「無点」という扱いにはしません。マイナスはあくまでマイナスとして、25投の総合計を計算してください。 - 記録取役 「(たとえば)A連48点、B連57点」
- 行司 「B連 相勝ち候(あいかちそうろう)」
- 行司 「一同、礼」
- 全員が礼をして一切終了。記録取役は得点控を両チームの誰かに渡す。
(*)
先攻でなくあえて後攻を希望するという作戦もあるのですが、行司によっては「後攻を選択する」のを認めない場合があります。個人戦10投の試合ではサイコロの目で自動的に先後が決まるわけですから、団体戦で「あえて後攻」まで認めないというのもわかります。
しかし、個人戦の場合は席替えの後で先後も入れ替わるわけで、「最後の1投」をサイコロで勝った方が持てるのです。したがって、団体戦でもその優位を欲しい(接戦の時、最後の勝敗は自分の手で決めたい、という)心理も十分にわかるのです。
しかし、これについては振興会側の説明がよく変わりますので、大会のたびに確認するしかありません。
2001.06.09 追記
今年の伝法院の大会では、あらかじめ其扇庵夢蝶先生から「団体戦は、サイコロで勝った方が席を選び、負けた方が先攻後攻を選ぶ」と明言されましたので、その通りにしました。
特に今回は障子を開けて行なわれたので席によっては風の影響がかなりあり、このような指示がなくても勝った方はおそらく席を選んでいたでしょう。しかし、毎回そうであるわけではありませんので、団体戦の行司を任された方は、不公平がないよう、必ず大会の主催者側に確認するようにしてください。
同点の場合の追投について
ところで、個人戦でも団体戦でも、「一席満投」して記録取役が双方の点数を読み上げた時、同点で勝負がついていない場合があります。
特に、片方がコツリなどの過料によってマイナスで、相手が純粋な0点だったとしても、試合結果としては「両者とも無点」扱いなので、やはり追投をしなければなりません。両者ともマイナスだけど絶対値を見たら片方が少ない、なんて場合も同様ですね。
これは、投扇興の得点というのがあくまで「ごほうび」であるためです。過料があろうとなかろうと、結果として「ごほうびをもらえるような形がなかった」のが「無点(”0点”ではありません)」ということですから、どちらのマイナスが多くても追投の対象となるわけです。
この場合の行司の口上は、次のようになります。
- 行司「席、未定(みじょう)につき、一扇追投(いっせんついとう)」
- ここで、投げるのは後半の先方からです。つまり、最初のサイ振りで負けた方ということになります。
上の個人戦の例で、佐藤さんと鈴木さんが追投に入った場合は、後半五投で先方だった佐藤さんが引き続き先方ということです。
団体戦の場合は、大将(第五投者)の対戦で先方だった方が先方を続けます。団体戦は5人が交互に先方を入れ替えるので、結局は第一投者の先方が追投でも先方、ということになります。
- 1回ずつ投げて、片方の点数が上だった場合は、それによって行司が勝敗だけを告げます。
たとえば佐藤さんが手習、鈴木さんが花散里だったら、行司は「鈴木殿 相勝ち候(あいかちそうろう) 一同、礼!」と勝敗を宣告して終わりになります。
得点はあくまで10投なので、記録取役は記録用紙に記入しないでください。
- 最初の1回だけでは決着がつかなかった、たとえば佐藤さんも鈴木さんも手習とか、あるいは片方が行幸で片方が絵合で双方4点だった、といった場合は、もう一度追投を行ないます。
- 2回繰り返しても(※)同点の時は、
行司「席、未定につき、これよりは先取得点者勝ち」
と告げます。
つまり、サドンデス(サッカーではVゴールとかゴールデンゴールですか)により決着をつけるわけです。
どちらかが先に手習や野分でない得点技を出した時点で、その人が「相勝ち候」となります。
しかし、これはかなり不公平なルールとも言えます。
おそらく、まだ初心者ばかりの時代に考えられたんじゃないかと思うのですが、2回ずつ投げても「どちらも手習しか出ない」ようなレベルだったら、それこそ5回投げても6回投げても手習がずっと続くことも予想されます(実際、伝法院の大会の紅の部などでは、10投を終えて0対0で追投に入る、というのはよく見かけます)ので、確かに「先に得点した方が勝ち」で十分納得できたでしょう。
しかし、ある程度の腕前同士の対戦では、追投に入っても、どちらも4点ずつとか5点ずつといったハイレベルの応酬になることは珍しくありません。そういう試合でも、「3巡目からは先に得点した方が勝ち」でいいのでしょうか? 花散里でも何でも、とにかく当たればいい。いや、関屋でも藤袴でもいいわけです。
となると、個人戦の場合はサイコロの目が小さかった方がものすごく有利、ということになってしまいます。まあ、プレッシャーでかえって手が震えて手習になってしまうこともあるかもしれませんが…。
団体戦の方は第一投者の先方が最終的には追投でも先方になるので、納得できなくもないんですけどね。
「追投は再び前半の先方が先方に戻る」ならサイコロの通りだし、あるいはせめて「(3巡じゃあまりに少ないんで)5巡目から先取得点者が勝ち」とかだったら多少は納得できたのかも。
とにかく今の時点では、これがルールです。
どちらも10投ずつするんだし、サイコロに勝とうが負けようが差はないはずなのに、それでもサイコロに勝つと喜ぶ人が多いというのは、たぶん「勝負を決する最後の1投は、自分が持ちたい(後半は後方になるから)」という心理が働くからでしょう。団体戦では、席を取れなかった場合、あえて先攻でなく後攻を選ぶ、というのはよく見られます(私のチームでは、もう暗黙の了解になってます)。
先方を取ることにそういうメリットがあるならば、追投に関してだけは、かえって先方に多少のリスクがある、ということもあらかじめ承知しておくしかないでしょうね。
いつの日かルール改正がなされる日が来たら、3巡でも4巡でも、とにかく1投ごとの得点で決着が着くまで追投を続ける、という方向に修正されることを願ってやみません。
2011年6月4日追記)
本日行われた伝法院の大会では、「5回追投しても決着しなかったら、先取得点者の勝ちとしてください」と言うことになりました。やはり、さすがに2回だけでは少なすぎることが理解して頂けたのでしょう。私が17年やってきた経験から言っても、「3回」まではあっても「4回追投」したことはほとんどなく、まして5回(手元の扇を全て投げ切る)まで追投が終わらなかったことはないので、「5回」というのはまずまず妥当な数だと思います。
